「Work hard ,Play hard」 ―山口 仁史さん

仕事との向き合い方をお聞きしていると、様々な分野で経験を積んだ山口さんの言葉は深いなあと感じます。
ユーザーの顔が見える仕事がしたいというお話にもとても共感しました。当たり前にできそうでできないことを、きちんと積み重ねる。それが山口さんの強みなのだと思います。第2話お楽しみください。

レノボジャパン
執⾏役員 COO 兼 Integrated Operations Lead
山口 仁史さん
HP:https://www.lenovo.com/jp/ja/about
2001年にP&G入社。サプライチェーンファイナンス、カテゴリーファイナンス、CBD(カスタマー・ビジネス・ディベロップメント)ファイナンス、カスタマーチーム・ファイナンスマネジャー、流通戦略担当を経験。その後、2011年にモルソン・クアーズ・ジャパンのCFOに就任、バックオフィス全体を管轄。2014年、ハイアール アジア グループに移り、 アジア全体のファイナンスVPや日本のマネージングダイレクターなどを歴任。2018年8月から現職。
誰もが驚くような大失敗というわけではありませんが、私のその後の行動にすごく影響を与えた失敗談があります。新入社員の時の話なのですが、入社してすぐに会社の諸事情でアサインメントが変わったので正確に言うと二人目の上司なのですが、私にとっては最初のアサインメントでした。当時、物流と生産を本社側から見るという立場のファイナンスをしていました。上司はアジア全体の生産サイドのファイナンスを見る部門のヘッドだったのですが、彼はインド人でした。
恐らく、今思えば、日本人の新入社員なんて自分の部下に持ったことなどなかったのだと思います。英語はアメリカに行ったお陰で、それなりにできるようにはなっていましたが、ファイナンスに関してはファの字もわからない。もちろん何をすればいいのかすら、わかっていない状態の時に、突然上司が、「Are you ready?」と聞いてきたのですよ。「えっ?何のこと?」と思って聞いたら、「もうすぐアジアの生産のトップとレビューだよ」と言われたのですよ。「は???」って。
それは今日っていうことですか?
そうです。そうです。1時間後くらいですよ。「聞いていないのか!!」と上司は怒りながら自分で資料を作り始めました。その瞬間、クビだ!!って思いましたよ。
でも、それって上司も親切じゃないですよね。
私も一瞬そう思いましたが、冷静に考えたら、受け身だった自分がいたことに気づいたのです。わからないことを確認するという、ビジネスマンとしては至極当たり前のことができていなかった。何事も受け身でいていいことなんて一つもないなと、その経験からすごく思うようになり、そのことはその後も私の中で大きな影響を与えています。
例えばアサインメントが大きく変わったときや、転職したときも、最初の3か月は質問しないと逆に失礼だと思えるようになりました。
その心構えがあるのとないのでは違いますね。
そうです。
日本人的な感覚からすると、10人くらいの上司を含めてミーティングの場で新参者が質問をするなんて、心のハードルが非常に高いじゃないですか。ですが、ここでみんなの時間を余分に使わせてしまうかもしれないですが、それを3か月以降後に自分が逆に付加価値を付けて返すことができるなら、そちらの方が大切かなと思えるようになりました。「Are you ready?」のあの瞬間の凍り付いた感覚は今でも覚えています(笑)

聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥ということですね。
恥で済めばいいのですが、事業やビジネスに穴を空ける可能性も無きにしも非ず、ですから。
今も私は部下にこの話はよくします。特に転職をしてきた人には「3か月間は、なんでも質問する権利があると思っていい。その後、即戦力としてチームに貢献できるようになるために、逆に最初に2か月3か月は聞きまくりなさい。」と伝えます。
ありがとうございます。
ちなみに直部下は何人で、どのくらいの規模のチームを率いていらっしゃるのですか?
ん~全体で50名くらい、直レポは、今は5人です。
現在のお仕事について教えてください。
直下の組織にサプライチェーン、セールスオペレーション、ストラテジーとたくさんの部署があるので、社長の右腕的に優先順位に基づいて、何でもやります。
優先順位は山口さんが決めるのですか?
私が決めることもありますし、社長と相談しながら、ここは私が入りますね、などと、やることが多いです。
社長はどこの国籍の方ですか?
ジャマイカ生まれのカナダ国籍です。とても気さくで明るくていい人です。日本語がペラペラです(笑)
今のお仕事をなぜ選ばれたのですか?社会的意義や、山口さんがやる意義など教えてください。
すごく真面目に答えると、弊社の日本の組織は、3つか4つのDNAから成り立っています。法人形態としてはNEC PCという日本由来の会社と、グローバルカンパニーとしてのレノボが合体してできた組織です。お陰様で日本においてNo1のシェアを誇っています。
今、デジタルトランスフォーメーションと、誰もが言っている言葉ですが、第4次産業革命的なこの時に、この規模感を持っていて、変革をリードすべき立場の会社で働けるというのはとても面白いと思いました。それがこの会社を選んだ理由です。
ちなみにどのくらいの規模なのですか?
PCの日本のシェアが3割くらいです。3台に1台は弊社のパソコンです。
それはすごいシェアですね。
話は変わりますが、どんなお子さんでしたか?どう育てられましたか?
とても厳しく育てられました。両親は躾に厳しかったです。子どもの頃には怒られた記憶しかないですね。
どんなことで怒られていたのですか?
どんな場面だったかはあまりよく覚えていませんが、「きちんとしなさい」とよく言われました。二人とも厳しかったですが、父はあまり居ませんでしたから、母が厳しかったです。
そして、私はとても人見知りです。小さいころは今よりももっと人見知り度合いが激しかったので、仲のいい友達は多くなかったです。かといって、学校で誰ともしゃべらないということはありませんでしたが、人見知りなりに普通に過ごしていました。
今は随分社交的になられたのですね?
それは仕事のおかげですね。
あと、親に感謝していることと言えば、自分がやりたいと思ったことを何でもやらせてもらえたことです。例えば「将棋をやりたい」と言い出したら、将棋会館に通わせてくれたり、習いたいと思ったことは全てやらせてくれました。
他に習い事は何をされていましたか?
一番早かったのはピアノです。水泳、将棋、サッカー、テニス、スキーです。水泳はどちらかというと親が行かせたのだと思うのですが、子どもの頃、小児喘息、小児アレルギー、小児アトピーの三重苦でしたから、それを克服するために習っていたのだと思います。3歳くらいのことですから覚えてはいないのですが、ピアノや将棋は自分でやりたいと言って始めたようです。
部活は何かされていたのですか?
部活はしていませんでした。高校時代は軽音部でした。
小学生の頃なりたかったのは建築家とのことですが、今との共通点はありますか?
そうですね、ちょっと無理やりですが(笑)、生活を便利にする、生活の中になくてはならない一部分という意味では、同じかなと思います。
わたしはどうしても消費者の顔が見えるところで仕事がしたいと思っています。部品を作ったり売ったりするお仕事はとても重要でそこが無ければ世の中成り立たないのはわかっているのですが、私はそこではモチベーションが保たれないのです。それがサービスなのか、目に見える物なのかは別として、最終的なユーザーや消費者の何か役に立つものに携わっていたいというのは、私の根底にあります。ですからいろいろな会社からヘッドハンティングの話が来ても、どうしてもユーザーが見える仕事選びます。
山口さんの強みを教えてください。
キャリアがとてもユニークなことじゃないでしょうか。いい意味でのGeneralist。もちろんcoreはファイナンスです。ただ、そこから派生する形でいろいろな仕事をさせてもらい、ファイナンスという立場で様々な部署の方と仕事をさせてもらっているうちに、その部署は何をしているのか、どういう使命があるのかを実体験として学ぶことができました。P&Gに入ってシンシナティに行かせてもらったときに出会った私の上司、今も私のメンターなのですが、彼に言われたのが、「ファイナンスは自分が与えられた責務だけで満足しているうちは一人前とは言えない」でした。これは今も私の中に根付いています。
どういう意味ですか?
私の仕事の責任範囲の中だけで優秀なことができたとしても、それは優秀なファイナンスマネージャーではないということです。そもそもファイナンスの存在意義は、株主に対して利益還元を最大化していくために働くことです。「会社が企業体として継続的に売り上げと利益を伸ばしていくことが株主の期待だとしたら、それに対して影響することにはファイナンスとして口を出すべきだ。それが悪い影響なのか、いい影響なのかは別として。だから自分の責任範囲の中だけで満足するな、むしろその影響力の円をどんどん広くしていくことが優秀なファイナンスマネージャーなんだよ」それを聞いた時に、なるほどなと思いました。この言葉はものすごく腑に落ちています。まあ、その前に大前提として、自分の責任範囲をしっかりとやるというのがもちろんあります。
確かにそうですね。
この考え方は決してファイナンスだけの話じゃなく、どんな部署でもどんなポジションでも当てはまると思います。越権行為だという人もいるかもしれませんが、それでも一つの組織である以上は「僕の責任範囲はここまでなので知りません」という方がおかしいと思います。もちろんそこにマナーは必要ですが、少しでも向上するのであれば、範囲内に留まるという考え方は違うなと思います。
それを教えてもらえたから、「口を出す」というところが強みなのですね。
それが結果的にGeneralist感になっていったのだと思います。
Generalistとしてキャリアをアップされてきたことが強みだということですが、そもそもそれができたのは何故ですか?性質的な強みは何ですか?
多分、P&Gにいた時から感じるようになったのは、どんな仕事の内容であっても究極な考え方は一緒なのかなと思えるようになったのです。例えば、本社にいたときはもちろんユーザーや消費者のことを考えて色々なことを計画していくじゃないですか。それが次、営業の現場に立ったら、目の前に得意先が存在するので、得意先のメリットについても考えなければならない。けれど究極的には会社としてのメリットはもちろん必要です。それがビジネスパートナーとしての得意先のメリット、そしてもちろん買ってくださる方のメリット、それは対誰かのメリットである。これって、対「誰か」が違うだけの話です。例えば社内でも「私は営業なので得意先へのコミュニケーションはできるけれど社内の偉い人とのコミュニケーションは苦手だ」という人もいる。
私はどちらかと言うとそちらのタイプかもしれません。
それは別に変なことではない、対「誰か」という風に考えたときに、相手が違うだけであって、誰かのことを想うという意味では究極的に同じだと思っています。その人にとって何が一番大事なのかという視点さえあれば、同じことなのじゃないかと思うのです。この考え方が私の強みなのかもしれません。
P&G時代に営業のファイナンスに携わらせてもらえたことは、一番の財産だと思っています。あの経験がなければ、その後のキャリアは難しかったと思います。
なぜそう思われるのですか?
まず一つに、P&Gは外資系企業なので、ずっとその文化の中だけで働いていると、日本企業では役員はどう考えていているかとか、現場の人たちがどう考えて働いているのかは、わからないままでした。けれど、事業としてお互いが手を組んで進んでいく以上、互いの間はどこなのだろうと考えるようになる大きなきっかけになりました。現場に行けたのは財産です。本社で行っていることが机上の空論というわけではないですが、やはり現場に出なければわからないことがたくさんありました。
営業の現場にいるものとしては、そう言ってもらえると嬉しいです。
ありがとうございました。
(撮影協力 本多佳子)