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CONCEPT -Think&Talk-|学び続け、進化し続けるビジネスマンに向けて、さまざまな業界のトップリーダー たちと仕事観を語らう。

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【仕事=私事(わたくしごと)】―山本 智美さん

【第3話】「求められる人材は常に素直」
2019年07月11日
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山本さんとの出会いは、9年前に参加したある会社の忘年会でした。それからその忘年会で年に一度お目にかかるものの、ご挨拶するだけだったのですが、2年ほど前に私からお声をかけさせていただいたのがきっかけです。マイナビという大会社で敏腕営業であり、そして取締役。柔和で穏やかなイメージの山本さんからどんなエネルギーが出ているのか知りたかったのです。山本さんの魅力に迫ります。全3回お楽しみください。

山本智美

株式会社マイナビ
取締役

山本 智美

HP:https://www.mynavi.jp

 

(株)マイナビ取締役 紹介事業本部長。1994年当時の毎日コミュニケーションズに 入社。大阪支社を経て1997年に東京本社へ。 就職情報事業や出版事業などでキャリアアッ プを果たした後、2002年から紹介事業本部に着任。2004年に事業責任者となり、2007年分社化・毎日キャリアバンク社長。2012年マイナビとの合併後、2016年取締役就任。

 

「毎日キャリアバンク」の社長に就任されたのはおいくつの時だったのですか?

 

36歳です。スタート当時は赤字でしたし、名ばかりの社長だろうと思われるかもしれませんが、マイナビ、毎日の社名を名乗って、女性初だ、最年少だとタイトルがつきました。それで終わったら、「ただの目玉商品」になります。「私は本物であると行動をもって示さなければならない」と覚悟を決めました。

 

他の会社でも山本さんのような存在の方はいらっしゃるじゃないですか。誰かに「この人だ!」って思われて引き上げられる方。でもご本人は自分がその存在だと気づかれていないか、それ自体もわかったうえで、何くそと踏ん張って、その引き上げられた器に見合う本物になって行かれるのだと外から見ていても感じます。

 

失敗もたくさん繰り返してきました。ゼロ立ち上げですので、その組織にはまだ成功体験が無いのです。ですから、メンバーの誰かが成功していくしかない。経験からの学習サイクルで、失敗しながら成功に至るので、皆がたくさんの傷を負いました。痛い思いをたくさん経験する中で、小さな組織ではその痛い経験をフォローしてあげられず、管理職に上がった人はより責任の重さに苛まれ、離職率が上がりました。今思えば、初期のメンバーは、個の能力としてはとても優秀だったと思います。皆自分の成功体験がまだまだ不十分ながら、次々入ってくる新人のマネジメントをしなければならず、やり甲斐と表裏一体で、行き場のないプレッシャーや責任の重さに心折れる管理職が少なくありませんでした。

当時のことでは、反省すべき点は山のようにあり、あの頃に未熟な組織の基礎となって支えてくれたメンバーには感謝の念しかありません。その学びのおかげで今がありますから。今のような1000人規模の大組織では、失敗することが許されにくくなってきています。誰かが失敗して成功に至らなかったら、代わりの人材がいますから。失敗体験も含み入れた試練、それはチャンスと言い換えてもいいのですが、人材の層が厚くなってくると、それが回りづらくなりますね。そういった意味では大きな組織になった今の方が、成長するための試練の機会を得ることが容易ではなくなっています。

立ち上げ当時は、初めから成功するわけもなく、失敗の連続から成功を生み出していく、「失敗の先に成功があるよ」という感覚でした。しかし今は、リーダーのミスジャッジ、判断や行動の遅れは大きな数字の損失に繋がります。そのために現在の管理職は、プレッシャーも大きく、取り組む前から失敗を恐れてしまう傾向も感じます。

 

山本さんは失敗した方がいいよと思っていらっしゃるのですよね。そういう姿勢で取り組んでも、実際には失敗されないということでしょうか?

 

今の現場も、実は日々失敗の連続ですよ。でも立ち上げ期の失敗とは質が違います。また、周りに相談できる人もたくさんいます。そういうサポーターの助言もいただけるので、リスクヘッジはできます。本当に自分一人で考えるしかなかった環境と、信頼する人に相談できる環境では緊張感がまるで違います。これでいいのかと自問自答しながら走る状況と、誰かが「それでいいよ」と言ってくれる状況、自分で100%決めたことと、誰かの助言を踏まえて決めたことでは、覚悟や責任感の持ち方が全然違ってきますよね。

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素晴らしい環境でしたね。

 

ゼロからチームを作ることは、最大の楽しみであり、一番成長できる場面でもあります。上に立つ者が一番成長しなければいけませんからね。

 

身につまされます。ご指導お願いします(笑)
時間、お金、人付き合いでこだわっていることはありますか?

 

「Time is money」です。時間が無さ過ぎて、やりたいことを100%できないので、優先順位付けが勝負です。優先順位はどんどん変わるので日々日々リセットします。

私には「仕事は私事(わたくしごと)」という信条があります。つまり、オンオフという切り替えではなく、それは一線上にあると考えています。仕事を頑張れば「私」に返ってきます。そして「私」が充実するとそのエネルギーをまた仕事に返せます。ですから公私は常にリンクしていて、オンオフで切り替えるのではなく、私の中ではワンセットです。会社にいる時間だけが仕事のことを考えている時間ではありません。プライベートの旅行中にパッと閃くこともあります。オフの時の方がむしろリラックスして閃くことも多いので、公私を切り分けることはしません。ですから、両方をひっくるめて優先順位を付け、中長期的なありたい姿(ビジョン)に向けて、今日やるべきことに全力をかけます。

 

どのように優先順位を決められるのですか?

 

1つ指標があるとすれば、自分でなくてもいいものは、すべて人に任せる、ということです。組織のマネジメントでは、時期尚早と思っていると、部下の成長の機会を損失することにつながります。ポテンシャルのあるメンバーを大きく成長させるには、時期尚早かな、と思うくらいで任せてしまうと、ちょうど良いケースが多々あります。また育児においても、専業主婦が陥りやすいのは、「自分が全てやらなければ」という思考です。ですがプロがやった方がいいこともあります。習い事も子どもの勉強もプロにお任せした方がいいじゃないですか。ですから仕事においても、育児においても私は総合プロデューサーであろうと思っています。

育児に関してはどういうプロデュースをされるのですか?

 

育児においてはまず環境を考えます。どういう環境に置いてあげれば、この子は自分が望む道に進めるのか、と考えるのです。そしてそれは私自身が手をかけられるのか、他の誰かに任せることができるのかです。そのうえで、ピアノの先生、絵画や工作の先生など、信頼できるプロフェッショナルを全力で探します。この先生だ!という先生が現れたらお任せします。
子どもにあらゆる可能性を広げて、最後は自分でチョイスしてもらう。ですから最初はあまりやりたくないと思っていても、まずは飛び込ませます。やっているうちに好きになっていくということがありますから。これは仕事にも通じることで、最初は嫌だと思った仕事も克服できるようになります。子どもの時期からそういうトレーニングも時には必要だと思っています。部下育成と育児は通ずるものがあり、常に交錯します。

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お金はどのようにつかわれますか?

 

ショッピングは大好きですが、出産してからは子どもとの時間や、その環境づくりにお金をつかうようになりました。プロフェッショナルの先生に価値ある時間を息子に提供してもらえるならば、そこは惜しみなくつかいます。そこには時間を買っている感覚があって、時間と、その方々が蓄積してきた経験と能力を、お金をお支払いしてアウトプットしていただいている感じです。また、自分が元気でないと仕事もプライベートもやっていけませんので、自分をメンテナンスするためにもお金をつかいます。

 

どのようにメンテナンスされているのですか?

 

マッサージも行きますし、長年の運動不足を解消しようと最近やっと運動も始めました。それもこれも、時間を捻出しなければいけませんので、自分が全力を出したいときに出せるよう、体力気力の醸成・リフレッシュを常に意識しています。

時間を有効に使うためなら何でも使います。自分にない経験スキル能力を持っている方たち=プロフェッショナルと出会うためなら、労力を惜しみません。

旅行は最大の学びの時間なので、家族揃って行けるタイミングであれば、その時期が多少高くつく時期であっても行きます。時は金なり。時間が確保できるタイミングが優先です。

 

何かに迷った時、どのように結論を出しますか?

 

迷ったら、私は周りの声に耳を傾けます。現場の声を最大限吸い上げた上で、自分を客観的に俯瞰する場所に置いて、一度リラックスして天の声に耳を傾けて、答えが下りてくるまで待ちます。

そのリラックスってどうされていますか?

 

誰にも邪魔されない空間に身を置きます。移動時間はとっても有効で、誰もが私を放っておいてくれるじゃないですか。ですから長時間移動する出張は私にとっては、ものすごくリラックスして物事を考えるチャンスです。新幹線に2時間半1人でいられる。これはものすごく頭が整理できます。ふと空いた時間に、何を考えなければいけないのかを忘れないよう、いつも「考え事メモ」をつけています。考える時間と作業する時間を分けることが、業務効率上最も重要です。人は考えながら作業していることが非常に多いのです。オフィスのPCの前にいると、メールが来る度に返信する作業をしてしまいませんか? そして、「あっ、またあのこと考えなきゃ」と考えます。良い思考力を生み出すために、新幹線の中でもカフェでもいいので、誰にも邪魔されない空間、集中できる場所でしっかりと結論を出そうとしています。

小刻みな隙間時間ではいいものは考えられないので、逆にそのような時間は、作業的な仕事に充てます。電話をしなければいけない相手が5人程いて、ランチの移動時間にかけられるなと思ったら、オフィスからはかけません。パソコンの前ではパソコンの前でしかできない作業をします。また、メールをこまめにチェックする人も居ますが、メールを過度にチェックすると、かえって業務効率が落ちます。「考える時間」を優先して、自分のリズムを作るようにしています。

 

なるほど。確かにそうですね。
山本さんにとっての幸せは何ですか

 

私が目指しているのは、人に感動を与え、救える人になることです。自分の存在が人を愉快にし、幸せにできれば嬉しいです。私は関西人なので「お笑い」や「エンターテイメント」意識が根底に根を張っています。人を楽しませ、感動させること、何かあった時に、人を救える自分で在りたいという気持ちがありますね。そして、私自身も、沢山の人たちに救ってもらって来ました。心通じ合う人と出会えた時、最高の幸せを感じます。


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その「人」はどういうご関係の人ですか?

 

それは身近な人から始まって、そこから繋がっていく人たちです。たとえば、社員、そのご家族、ご親族……と何万人と繋がっていますよね。その意識をもって自分を精進させていかねばと思っています。私自身、例えば息子といる時間、家族で大自然の中で遊んだり、美味しいものを食べたり、他愛もない会話をしている時間が幸せだと感じますが、そういう私的な時間の幸せと、私の部下が仕事を通して自己実現し、本人もそのご家族も幸せを感じる日々と一体のものとして、それが実現する未来をイメージして、組織を作っていきたいと思います。それは意外に難しくて、本人がやる気満々でも、ワークライフバランスが崩れると、体調不良になり家族が困るということにもなりかねません。職場にいるすべての人が真剣に、受身ではなく、自身の働き方改革に臨まねば、明るい未来は創れないと思いますね。

先ほども申し上げましたが、「仕事は私事(わたくしごと)」ですので、全力で取り組んだ仕事は、必ず「私」にも結果として返ってきます。仕事で人脈が広がり、様々な人と出会ったり、大きな結果を出し、年収が上がったら、それは「私」に返ってきたということですよね。そして「私」で幸せな時間をたくさん持てたら、またエネルギーが湧いてくる。そうやって循環しています。これらはワンセットで繋がっていて、どっちも求めて掴み取っていくべきだと、社員ともよく話します。

 

社員だけにとどまらず、全世界を巻き込んでほしいです。
山本さん、へこむことはありますか?

 

あまりありませんが、へこんでいる時はチャンスだとも考えます。上手くいっている時、人は調子に乗るじゃないですか。自分の何かを修正していこうという謙虚さが無くなり、視野が狭くなります。へこんだ時、失敗した時にこそ、上手くいっていた時のことを思い返して「あの時はどうして上手くいったのだろう」と考えることで、他者が助けてくれていたこと、環境に味方されことなど、自分の頑張り以外の要素に気づくことができるのです。そして謙虚になれます。へこんだ時は自分をバージョンアップすることができるチャンスだと思ったら、落ち込んでいてもそう長く続くことなく立ち上がれます。

 

考え方次第ということですね

 

はい、良いことと悪いことは繋がっています。「人間万事塞翁が馬」ですね。

 

表裏一体ですものね。現在の野望を教えてください。

 

その「野望」という言葉がとても新鮮ですね。

野望、と呼べるもの、そう表現できるものは私の意識の中にはあまりありません。今の延長線上に何かお題が来た時に応えられる自分であろうと思っています。どんなお題が来ても応えられるまでの自信はありません。ですが、それこそ精進です。何事も一日にしてはできないので、失敗したり悩んだりしながらも、今の自分にないものを日々吸収したいと思っています。それがさまざまなことにキャッチアップする備えになるでしょうから。そのため、なるべく自分と対極にいる人、自分にない経験を持っている人と会い、その価値観を吸収したいと思っています。

それは生きていく上でのヒントになります。「あの時のあの人の言葉の真意はこのことだったんだな」と何かあった時に引き出せるように、引き出しにいっぱい入れておくのです。

1万人という規模の会社の役員として、この会社を、これからも、もっともっと成長させていくためにどうすれば良いかという視点は、忘れることはできません。それは日々痛感しています。自分の担当事業に重きを置いてしまいがちですが、会社全体に対してALLで考えられる役員で在りたいと襟を正しています。ですから、日々トレーニングですね。日々のトレーニングなしにいきなり走れませんから。それだけはしておこうかなと思います。

 

最後に、過去迷っていたころの自分に伝えたいメッセージがあれば教えてください。

 

「自分を信じて楽しんでいけばいいよ」という感じでしょうか。

たくさんの人と組織を見てきましたが、結局求められる人とは、素直に人の声を傾聴し、常に目の前の仕事に真摯に向き合い、結果に拘り、やりきる人です。昇進しても自身の人間性を日々磨いていない人は、スキルや成功体験があっても、それをアップデートしていけず、今求められていることに応えられません。役職が上がると、自身の耳の痛いアドバイスや忠告をくれる人が少なくなりますからね。ピーターの法則ですね。

 本当にそうですね。ありがとうございました。

撮影協力 本多佳子