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学者の特権~“面白い”の追求―入山 章栄さん

【第2話】面白い!知りたい!発信したい!
2020年04月16日
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第2話は、入山先生の今のお仕事についてや、どんなお子さんだったかをお聞きしました。
お話がとても簡潔でわかりやすいのは、周りだけでなくご自身のことも俯瞰していらっしゃるからだと感じました。
共感することの多かった第2話、お楽しみください。
 
入山 章栄

早稲田大学大学院(ビジネススクール)教授
専門分野:経営学

入山 章栄さん

HP:https://www.waseda.jp/fcom/wbs/faculty-jp/6072

 

慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。
三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。
同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。
2013年から現職。Strategic Management Journalなど国際的な主要経営学術誌に論文を発表している。
近著に「世界標準の経営理論」(2019年、ダイヤモンド社)がある。

 

日本に戻られたのはなぜですか?

 

しばらくバッファローでの生活をしていると、色々考え始めました。まずは私自身がずっとここに居たいのかどうかです。私は日本も東京も大好きですから。そして妻のことも考えました。バッファローのような田舎に居たら、妻が好きなこと、やりたいことができないのではないかと。妻は妻で現地ボランティアをして、色々と活動は始めていましたが、もっと彼女が活躍できる場があるのではないかと思っていました。そして、私の父が他界して母が東京の練馬で1人で暮らしているということもあり、帰国を考えるようになりました。でも、日本へ帰りたいという思いが膨らむ一方、アメリカでの永住を考えて夫婦でグリーンカードも取得していました。その両方で思い悩んでいたころに、たまたま早稲田大学でポジションを募集しているという話を聞き、そして日本に帰ることを決めたのです。

 

色々なご事情があったのですね。
現在の仕事について教えてください。

 

今は早稲田大学の教授をしています。私は基本的に経営学の研究者です。実際、アメリカでは研究しかしていませんでした。日本では、様々なご縁で私自身がメディアに出始めたこともあり、今はかなり特異な状況に居ます。今、かけている時間の割合で言うとおよそ7割以上が講演やメディア関係、加えて社外取締役や企業のアドバイザーなどの仕事です。教育と研究も一生懸命やっていますが、研究にかける時間が1割ほどで、これは研究者としては非常に良くない状態だと、ひたすら危機意識を持っています。

 

それは「変えたい」という思いがあるのですか?

 

研究も好きですし、やりたいという思いはあるのですが、メディアや講演、民間企業の仕事もとても面白いので、バランスを取るのが難しいですね。ですから今はいかにバランスをとるかが課題です。実は今、講演の依頼が1年間で数百件は来ています。これを全て受けると研究ができなくなりますから、今可能な限り講演をお断りするという選択をしています。頼まれるとついつい受けてしまいますからね。

 

なぜ研究者になりたかったのですか?

 

これは全ての研究者に共通だと思いますよ。「面白いから」です。面白いし、知らないことが知りたい!それ以外ないですね。私の場合はそれプラス、それを周囲に発信したいという思いも強いです。世の中ではこんな面白いことが起きているよ、こんな面白い考え方があるよっていうのを発信したいです。純粋な研究者であればそれを論文という形で発信するのですが、私はメディアも使ってそれを通して発信しています。

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発信したい先が誰かは決まっていますか?

 

決まっていないです。どなたでも!です。もちろん、コラムを書いたり、講演やテレビ・ラジオで話すときは、その対象となる方々を意識して発信します。でも、基本的にはどなたでも!です。

 

それを入山先生がされる意義というはありますか?

 

それはあまりないです。実は、私は「世の中に貢献したい」とう気持ちはあまりないのです。ですから、そういう意図で活動されている方に会うと、「偉いなあ」といつも思って見ています。社会の役に立ちたい、人に喜ばれるのが嬉しい、という方は当然たくさんいらっしゃいますが、私自身にはそれはあまりない。私は、「私自身が面白ければいい」という知的好奇心における快楽主義者かもしれないです。私が面白いと思うのは、知らないことを知ること、自分が理解できるということ、それを誰かに発信することなのです。


そういったことを「楽しい」と認識したのはいつ頃のことですか?

 

これが自身の楽しみだと認識したのは最近のことです。言語化できるようになったのはこの3、4年だと思います。
経営学では、センスメイキング理論というのがあるのですが、要は「腹落ち・納得」が重要、という理論です。私はこれはとても重要だと思っていて、日本の特に大手企業などでは、「自分は何がしたいのか」「何のためにこれをしているのか」に腹落ちせずに働いている人が未だに多いのが現状だと思います。でも人は腹落ちしないと変化しないし、楽しめない。
重松さんもそのお仕事が楽しいと腹落ちされていますよね。しかし、押し付けられた仕事をさせられていると、腹落ちしないから、適当になるのですよ。それが日本の様々な企業で起きているのです。要するに自分は何が好きか、何をして生きていきたいか、その夢を今の会社でできるのか。このように「個人のビジョンが大切です。そのビジョンが腹落ちしていますか」ということを、私は講演などでよく言っているのです。でも、ある時「そもそも俺はどうなんだ?」と考えたのです。その時に、自分は何のためにこのようなことをやっているかを深く考えると、それは「面白いから」以外に出てこなかったのです。

 

私自身、私にとっての幸せは何なのかということを突き詰めて考えるのですが、その際に「幸せの方程式」を使っています。「幸せ=持っているもの/欲しい物」です。つまり、欲しい物がわからないとたくさんのものを持っていても幸せはゼロのままだと思っています。

 

なるほど。それはそうですね。各務太郎さんというデザイン思考の分野で知られる若手と対談した時に、「問題解決より問題発見が重要だ」という話になりました。そこで「問題発見ってなんですか?」と各務さんに聞いたら、「それは簡単です、願望と現実のギャップです」と言いました。

 

それ、まさにそうです。その願望が設定できない方が多くいらっしゃるように感じます。

 

そうですね。自分の願望ってなんだって、考えていない方も多いです。それが腹落ちしていることが重要ですね。

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私も腹落ちという言葉は良く使います。これからの時代、女性が活躍するのではないかと思うのはそこです。男性は働くうえで迎合できる才能があると思いますが女性は腹落ちした時にすごいエネルギーが出ると思うのです。

 

今の男性中心のビジネスではIPOだとか、会社の企業価値を大きくしましょうという志向が強いのですが、女性で会社を始めている方は、「気の合う仲間2、3人と細々と好きな旅行会社をやっているだけで幸せ」という感じの方も多いですよね。儲かることに興味があるのではなくて、利他性、自分ではなく他の人に喜んでもらいたいという思いが強い方も多いように思います。心理学や経営学でわかっているのは、女性の方が共感性が強い、そして女性の方がコミュニケイティブです。自分のバリアが薄くて、他の人とつながることに大きな喜びを感じます。これからの時代、そういう人の方が重要です。社会が変わってくると、女性の活躍できる場はどんどん広がっていくと思います。

 

それは女性としてとても嬉しいです。ありがとうございます。
仕事をする中でこだわっていることは何ですか?

 

仕事の中でこだわっていることは、ベストを尽くすことです。その瞬間その瞬間でどんな仕事でも受けた限り、手は抜かない、やりきります。手を抜くと後悔しますからね。もちろん一回一回反省はしますが、ベストを尽くすのは絶対条件です。


入山先生、どんなお子さんでしたか?

小学校1、2年の頃はいたずらっこで女の子のスカートめくりばっかりしてたのです(笑)。ある時担任の先生にこっぴどく叱られて、そのあたりからとても内向的になりました。どちらかというとからかわれて泣いている子どもでした。中学で野球部に入ってからまた活発になりましたが、わりとボーっとした性格でした。通学が長くて、練馬駅から自宅まで歩くことが多かったのですが、その間ボーっと空想していました。

  

親御さんにはどのように育てられたのですか?

 

基本、放任でした。

 

放任するとこんな感じになるのですね。納得です。
ご自身の強みを教えてください。

 

強みは、2つあります。1つは、僕は「遅咲き」だということ。遅咲きなので、いまだにどこか「自分は未熟者だ」と思っていることです。おかげ様でメディアに取り上げてもらったりしていますが、僕自身は自分に自信がなくて、そもそも自己効力感(セルフ・エフィカシー)が低かったのです。それが今になってようやく、「自分もちょっとはできるのかもしれない」と思い始めています。今になってそういう心理状態でいることが強みなのかもしれないと思うのです。もう1つは、俯瞰する力です。これは後天的に気づいたのですが、ある方に「入山さんは俯瞰の天才です」と言われたことがあります。言われるまで自分では気づかなかったのですが、実はそれが得意なのかもしれません。「全体をパッと見て、大雑把な構造を理解し、それをまとめ上げて描いたり、人に伝える能力」です。

 

それは、お聞きしていてとてもしっくりときます。

 

細かいことはできないのですが、「ざっくり言えばこうだよね」ということを捉えて、人に伝えることが得意です。

 

なぜ俯瞰ができるのですか?

 

気付いた時には備わっていましたので、よくわからないのですが、私は飽きっぽいのです。細かいことに意識が行かないからではないでしょうか。これは学者としては最悪です(笑)。学者は突き詰めて突き詰めて、特定の分野で生きていくのに、私は飽きっぽくて元来、一般に言う「学者」には向いていなかったのだと思います。まあ楽しいから、いいですけど(笑)。


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そうなのですね。でも入山先生のお話は、いつお聞きしても興味深いですし、惹きつけられます。ありがとうございました。

撮影協力 本多佳子