効率化=選択と集中ーリュウ シーチャウさん
いかに全体を効率よく進めるか、その先にある成果は、肩肘張らないシーチャウさんだからできたことなのだと感じます。
9歳での旅の経験が彼女の人生観を変えた。何を目指してどう生きてきたのか。彼女のエネルギーの使い方から学べることがたくさんあります。第2回、お楽しみください。
株式会社FOLIO
CMO
リュウ シーチャウさん
HP:https://corp.folio-sec.com/
一橋大学卒。P&G、レキットベンキーザージャパンで複数消費財カテゴリーのマーケティングを経て、ジョンソンエンドジョンソン(J&J)のマーケティング本部長に就任。全ブランドの売上及びその収益責任を負い、かつデジタル戦略を統括する。二年間で全ブランドのマーケットシェア向上を実現した後、J&J香港の現地社長として赴任、一年間でV字回復して軌道に乗せる。2018年7月より現職。
今のお仕事について教えていただけますか?#1 誰にでも考えつく「当たり前」を実行する
#2 目標は中の上!62点を効率よく目指す
#3 何をやるのかを決めるのではなく、何を捨てるのかを決める
今はフォリオという会社にいます。この会社は2年半ほど前に作られた証券会社で、社長はゴールドマンサックスの伝説のトレーダーだったそうなのですが、彼はトレーダーを10年やった後、この会社を作りました。フォリオの証券サービスができたのは去年ですが、実際に正式リリースしたのは今年の8月で、11月からマーケティング活動をしていますから、普通だったら誰も知らないはずなのですが、知る人ぞ知るという会社になっています。なぜなら、弊社はオンライン証券会社なのですが、日本株を扱う独立系証券会社として10年ぶりに参入したからです。しかもベンチャーが証券会社として登録されたというので注目されました。既に91億円の資金を調達しています。今年70億調達していて、サービスが正式にまだ出ていない段階でこの金額を調達したとニュースになりました。金融商品を作るにはそれ特有の難しさがあります。弊社にはエンジニア業界において有名な人が何人かいて、その人と一緒に働きたいと言って来てくれた人もいます。リクルーティングがうまくいき、トップエンジニアが集まり50人位のチームとなりました。ファイナンスなので、とりあえずみんな若くて元気がいい!というだけではなく、専門知識を備えたエンジニアをはじめ、クオリティがとても高いです。コンプライアンスもとても厳しいですし、監査役には金融機関で取締役などを経験された方々もいます。一般的にベンチャーと聞いて想像する社風に比べると、20代から60代と年齢層が広く、とても面白い人が集まっています。資金調達、新規参入、面白い人材、これらの要素でも注目されています。
シーチャウさんがこの会社を選ばれた決定打は何ですか?
プロダクトです。私はこれを見て入社を決めました。日本は1億3千万人近くもいるのに、投資をしている人は実は650万人(※2017年度民間調査会社の調査結果をもとにFOLIOが算出)しかいないのです。株式、積立NISA、投資信託とかいろいろありますが、そういうのをしている人が650万人です。それ以外の人は投資は絶対に嫌ですという訳ではなく、興味はあるのだけど、やっていない又は一度やったけれどやめてしまった人が多いです。やっている人よりやっていない人の方が圧倒的に多いのです。このライトユーザーや経験のない人たちに投資してもらうためには、そちら側のリテラシーを高めましょうと言ってもそれはなかなか難しい。それよりは、その人たちが慣れているUI(ユーザーインターフェイス)で、慣れているアプリでできる金融サービスが作れれば、投資を始めようというきっかけになるのではないかと思うのです。ポイントとしては約10万円から投資ができることです。投資をするためにはVRだとか寿司だとか、ペット、京都、人工知能、といった多くのテーマから好きなテーマを選ぶだけです。例えば「寿司」のテーマの中に何があるかというと、醤油メーカーや、回転寿司チェーン店などの寿司というテーマに関連した10銘柄が入っています。一般的に株式投資は、単元株と言って、100株単位で行われます。単元株を買うだけで400万円というものもあります。弊社はそれを各銘柄1株から購入を可能にすることで、10万円前後で10社への分散投資を実現しました。テーマを選んで、後はカートに入れるだけです。
そういうことなのですね。
株式投資が苦手な人たち、例えば個々の会社のことは知らないけれど、お寿司が好きだとか、ペットを応援したいよね、というような気持ちで投資できる。裏側のポートフォリオはプロが組んでいます。実は私が投資をやっていない側の人でした。一度も投資したことがないです。フォリオのテーマ投資の話を聞いたときに、これなら私にもできそうだと思ったのですね。他国と比較しても、投資している人が少ない日本において投資経験を変えるというビッグインパクトを与えられそうだなと思い、面白みを感じて転職を決めました。
動機としてはドクターショールさんの時と似ていますね。
大体転職を決める時はそうですね。何かが嫌で転職することはありません。転職には2つの条件があります。今の仕事をある程度コンプリートしているかということです。今めちゃくちゃ大変という時期はヘッドハンターからのメールにも返信すらしません。自分がある程度やって、納得したレベルにきているかどうか、そして次のものを選ぶとき、何かに対してインパクトを与えられるかどうかです。ドクターショールはブランドを伸ばせそうだと思いましたし、J&Jの時は組織を変えることでJ&Jのステージを変えられると思いました。この会社は単純にうまくいけば、世の中の人の考え方が変わるという、何かやることの意味を感じたときに転職を決めます。ですから既に上手くいっている会社にはいきません。既に上手くいっていれば、私が、入ろうが入らまいがあまり関係ないですからね。
なるほど、よく理解できました。
話は変わりますが、小さい頃どんなお子さんでしたか?
あまり優等生ではありませんでした。常に60点より少し上、中の上を目指して、時間とeffortをなるべくかけずにいかに62点を目指せるか(笑)。という適当な子どもでした。
効率重視のお子さんだったのですね。
そうかもしれませんね。歩くときも最短ルートがどこなのかをひたすら考えて歩いていましたね(笑)成績でトップになったこともなければ、ある程度のところまでいければOKでしたね。親は私にとりあえず「人に勝つ」ということを求めていなくて、どちらかというと「人と違うことをやっていろいろな経験をしよう」ということを言ってくれていましたから、成績がトップじゃなくてもプレッシャーはかけてきませんでしたし、好きなようにやらせてくれましたね。
「あなたらしく」ということですか?
そうです。あなたらしくです。
具体的に、「人と違うこと」というのはどういうことですか?
例えば、夏休みは受験のタイミングだとみんな塾に通って勉強しています。中国は日本よりももっと競争社会ですから、みんな色々な塾に通って勉強します。その時に、雲南省に行きたいと親に話したら、仕事が忙しくて連れて行ってあげられないからと、母は全然知らない雲南省出身の大学生のお姉さんを見つけてきました。そして初めて会った彼女に「あなたの実家まで、うちの娘も一緒に連れて行ってくれませんか。あなたと娘の費用は出しますから」とお願いし、彼女に私を託しました。私は初対面の彼女について行き、1か月間雲南省で過ごすという冒険の旅に出かけました。
これは何年生の時ですか?
小学3年生の時です。9歳かな。
この知らないお姉さんに託すって本当にすごい話ですよね。
一応素性は分かっている女性でしたが、初対面でした(笑)
そもそもなぜ雲南省に行きたかったのですか?
テレビを見て綺麗だなというような単純な理由でした(笑)ただ行ってみたかったのです。
実際に行かれて、一番の思い出は何ですか?
実は観光をしたことなどはほとんど覚えていないのですが、一番の思い出は、人見知りをしなくなったことです。その時までは実はかなりの人見知りだったのです。知らない人としゃべることがすごく嫌でした。昔はコンビニもなかったので、醤油1本買いに行くときも、商店に行き、「醤油下さい」と言わなければいけない。ですから「醤油が切れたから買いに行ってきて」と言われることがすごく嫌でした。醤油を買うために誰か人と会話しなければいけないというのが苦痛だったのです。そういう子がお姉さんと一緒に雲南省に行きました。お姉さんはなるべく安いルートで帰るために、汽車の中で一番安い席、要は3段ベッドで、雲南省まで2泊3日かかる電車を選びました。その列車では目の前の人が乗ってきては降りるということが繰り返されたのです。しかも、彼女はすごく社交的で乗ってくる人乗ってくる人と喋って友達になるのですよ。往復4泊。そして彼女の家はとても山奥の村で、電話は1個しかない。そこに数週間居て、いろいろな知らない人とめちゃくちゃ喋りまくった1か月だったのです。そして帰ってきたら、明らかに今までの自分と違ったのです。普通に人と喋るのが全然苦手じゃなくなっていました。それどころか自分から声を掛けるようになりました。この事が旅をした中で一番大きなことでした。
今はとっても社交的でいらっしゃいますよね。
はい、今はパーティなどでも自分から声を掛けにいきますしね。
では本当にこの時に変わられたのですね。
そうです。ここから変わりました。先日飛行機に乗った時に、その飛行機が遅れていて、待っている時間に後ろにいたカップルと喋り始めて、そこで彼らと飲み始めました。飛行機が離陸してからも一緒に飲んで(笑)すごく仲良くなりました。Instagramでお互いにフォローしあっていて、今度そのカップルと一緒に食事に行くことになっています(笑)
小学生の時のあの旅に行く前の私だったら、全然考えられないことです。
本当に人生が変わった旅ですね。
残念ながら、雲南省に何があったかというのは全く覚えていないのですが、どちらかというと人生観を変える旅でした。
仕事での失敗談はありますか?
P&G入社直後の頃の話ですが、みんなものすごく頑張っていて、一生懸命働いている時も、私は62点を目指して最短距離を行きたいタイプなので、なるべく時間を使わずに仕事を終わらせようとしていました。予算管理などの細かいことをやらなければならないのですが、それをちゃんとチェックしていなくて、予算もエイ!とやってみたりして、結果めちゃくちゃ怒られるということがありましたね(笑)大きくずらしたことは一度もないのだけれど、全部を整理して、やることにはあまり時間をかけたくなくて、大体頭の中で、「あれで大丈夫そうだ」という算段で動いてしまう。そしてめちゃくちゃ怒られる、ちゃんとチェックしていなくて危うくリコールになるところでした。そういうことがP&G入社直後はありましたね。
まあ、細かい事務作業は向いていないということですね(笑)
そうかもしれないですね。でも入社直後はそれを言えば、いったい何をやればいいですか?という話になりますよね(笑)
ご自身の強みを教えてください。
以前、ストレングスファインダー(ギャラップ社)をやったのですが、ずっと変わらない強みはWinning Others Over社交性でした。私は社交性が強みだとは思わないのですが、色々な人に会って、その人たちを繋げることによって、こういうシナジーがあると、話していて思うことがあります。人と話すことが好きですし、人に興味がある、どういうことをやっているのか、自分のやっていることとどうシナジーにするのかを考えることが好きです。それは強みですね。ストレングスファインダーの中にも出ていますね。
トップファイブには、未来志向(Futuristic)やコミュニケーション、戦略性(Strategic)活発性(Activator)が入っていました。自分がどんどん前へ出てやるよりも、どうすれば、効率よく皆が達成できるかを考えることが好きです。
時間の使い方のこだわりを教えてください。
基本的に時間を掛けたくないので、短時間でできる方法をめちゃくちゃ研究します。例えば、グローバルCEOの前でプレゼンする時、各カントリーマネージャーはプレゼンを作らないといけないのですが、普通はわかりやすいスライドを部下に作ってもらい、ロープレもし、数週間かけて作ります。私はそれを部下の時間を使わず4時間で作りました。他の国のスライドよりも全然美しくないのですが、とにかくストーリーを作りました。ストーリーが無ければ、スライドがどれだけあっても無駄だと思います。ですからまず手はじめにワードで1枚シンプルにストーリーを作りました。
今香港はこういう状況で、こういうことをしたらこういう結果が出て、次はこういうことをやりたい。次のチャレンジはこれで、こういうものが欲しいと筋書きを作ります。
その時点で部下全員に送りました。「グローバルCEOが来るので、皆さんの時間を5分だけください。このストーリーに関係のある既存のスライドがあれば、今日中にここへ入れてください。」と言って、フォルダーを作りました。それを元に、良さそうなものをピックアップして3時間くらいでストーリーを作りました。そういうところに時間をかけないやり方を考えるのが好きなのです。みんなのスライドはすごく立派できれいなのですが、私の作ったものはシンプルです。けれど、ストーリーは他の方と同じくらいしっかりしていますから、そういう意味では最短でできたなあと思います。
素晴らしいアイデアですね。とても勉強になりました。ありがとうございました。
(撮影協力 本多佳子)
#1 誰にでも考えつく「当たり前」を実行する
#2 目標は中の上!62点を効率よく目指す
#3 何をやるのかを決めるのではなく、何を捨てるのかを決める